松林塾長ブログ

人は何処からきて何処へ行くのか?(1)

出典 「サピエンス全史」表紙

数年前にドクター ハラリの書いた「サピエンス全史」と「ホモデウス」と言う 非常に
示唆に富んだ本を読みましたがその本の紹介と僕の感じた感想を書いてみたいと思います。

 

「サピエンス全史」は人類の今までの歴史、すなわち「人は何処から来たのか?」について
書かれており「ホモデウス」はこれからの人類がどうなって行くのか? すなわち「人は何処へ行くのか?」
について書かれています。

 

今回は「サピエンス全史」の「人は何処かに来たか?」について書いてみたいと思います

人は何処に行くのか?」については別の機会に書きたいと思います。

 

但し本書の内容は膨大なので本の紹介と言っても概要や抄訳ではなく僕の気になった事をメインに
書いてみたいと思います。

 

全体を知りたい人で未だこれらの本を読んでいない人は是非読んで下さい。

文句無しにお勧めできる本です。

 

人類は何故世界の頂点に立つことが出来たか?

 

人類の最初は250万年ほど前にアフリカで生まれました。 ただその後200万年以上にわたって
大きな力を発揮できていませんでした。

 

人類の特徴は直立2足歩行で手が自由に使える事です。
その為手を自由に使う事が可能になり色々な事が可能になりました。

ただ人類はその為に大きな犠牲を払ったのです。

直立に立つには内臓を支える為に骨盤が大きくなり産道が狭くなります。

一方手を使う事で色々な作業が出来るようになった人類の頭は大きくなっていったのです。

狭い産道と大きな頭部は出産の危険性を大きくしました。

 

そこで人類がとった選択は赤ん坊の頭がそれほど大きく無く又柔らかい未熟児の内に出産して
しまう
と言う方法でした。

僕は動物の映像を見るのが好きですがシマウマやヌ~、キリン等の赤ちゃんは文字通り
産み落とされます。

キリン等の非常に足の長い動物の赤ちゃんはかなりの高さから地面に産み落とされます。

赤ちゃんは数分で自力で立ち上がります。
そこにライオン等の捕食動物が来ると生まれたばかりの赤ちゃんも走って逃げます。

それに比べると人間の赤ちゃんは何も出来ません。少なくとも一年くらいはお母さんが
四六時中目を離さないようにする必要があります。

出典:キヅナ

 

ホモサピエンス以外にもヨーロッパに移住したネアンデルタール人とかアジアに移住した
ホモエレクトスとかインドネシアの島嶼地域に移住したフローレス人とか色々な人類が
生存していた。

ホモサピエンスの進歩に欠かせないのは三つの革命だと著者は述べています。

 

認知革命、

 

農業革命、

 

科学革命です。

 

ホモサピエンスが突然食物連鎖の頂点に立ち他の人類も駆逐したのは7万年前に起こった
認知革命だと考えられる。

 

認知革命とは?

 

噂話(虚構)を話す能力が開花したと言う事です。

例えば色々な動物が言葉を持ってコミュニケーションをとっている事は良く知られている。

アフリカに住む猿は「気を付けろ!ワシだ!」と言う鳴き声を持っている。又非常にそれに
似た鳴き声で「気を付けろ!ライオンだ!」と言う鳴き声も持っている。

研究者が最初の鳴き声の録音を一群の猿に聞かせると猿は恐ろし気に上を見て逃げた。
2番目の鳴き声を聞かせると猿は木に登って逃げた。

ホモサピエンスは何が違うのだろうか?

ホモサピエンスは「今朝川の近くでバイソンの群れを見た。多分明日もいるのでは?」と
言うようなストーリー(或いは噂話)を話すことが出来ます。

即ち人類は実際には起こっていない虚構について話すことが出来るようになったのです。

例えば人類が発明した虚構には何があるのでしょうか?

先ず「お金」です。お金は食べられないし、燃やして暖を取ろうとしても殆どやくにたちません。

所が「ドル札」と言う虚構への信頼は莫大です。アメリカと戦争をしているイスラムの国の
人もドル札の価値を認めます。

会社も虚構の産物です。会社の社長が変わっても従業員が全員入れ替わっても 会社の業務内容が
変わっても会社は存続し続けます。

国も虚構の産物です。

ソビエト社会主義共和国連邦と言う超大国がゴルバチョフのもとでソ連解体を決議した
アルマアタ宣言の採択によりソ連と言う国は無くなりました。

宗教も虚構の産物です。同じ宗教を信じている人同士は信じあえる事が出来ます。
時代は中世ですが十字軍について考えてみましょう。

ローマ法王が「邪悪な異教徒を叩き潰せ」と命令するとキリスト教を信じている人たちは集団で
中東の方に進軍します。イギリスからの集団もフランスからの集団が同じ目的を持っている事が
分かれば大きな仲間になります。

 出典Gregorius.jp

普通一つの集団が集団として機能するのは約100名程度だと言われていますが宗教と言う虚構を
信じる事によって集団は何万人にも何百万人にも膨れ上がります。

ホモサピエンスがネアンデルタール人と一対一で勝負すれば多分ネアンデルタール人の方が
有利だと思われます。

但し集団対集団で勝負すればホモサピエンスが集団の力を生かし圧勝に終わったでしょう。

このようにお金、会社、国、宗教等現在の我々にとって常識的に存在しているものの
殆どは虚構(想像上の産物)なのです。

 

農業革命とは?

 

紀元前1万年ごろには流浪の狩猟採集民族が500~800万人ほどが暮らしていました。

それが一世紀ころにはそれよりはるかに多い2億5000万人もの農耕民族が世界中で
暮らしていました。

 

但し暮らしの質と言う面では農耕民は狩猟採集民よりも優れていたとは言えないようです。

狩猟採集民族は比較的広い縄張りを持ち自由に暮らしていました。
又栄養学的にも色々なモノを食べていたので優れていました。

労働時間も現在も少し残っている狩猟採集民の実態から見るとそれほど長くは
無かったと考えらえます。

一方農耕民族の生活はかなり悲惨なものでした。朝早くから畑に出て草刈り、害虫駆除、灌漑、
収穫等一日中きつい仕事が続きました。

 

又栄養的にも穀物に偏った食事だったため十分なものでは無かったようです。

又干ばつ等の不作の年の備えの為に穀物を備蓄しました。

 

但しそのような備蓄穀物は王や政府の役人、兵士、聖職者等のエリート層を生み出しました。

それらのエリートが村、都市、王国と大きな集団を作って行きました。

 

科学革命とは?

 

500年前にホモサピエンスの人口は世界で約5億人でした。

所が今日では世界人口70憶人に達しています。

 

科学革命以前 イスラム教、キリスト教、仏教等はこの世界の事は全て分かっていると主張した。

何か知りたいことがあれば人々はコーランや聖書等の中に解を見つけようとしました。

重要な事は全てそれらの聖典にかかれていると考えられていたのです。

 

所が科学革命においては重要な事項に対して「無知」で
あると公に認めることから始まりました。

進んで無知を認める意思がある為、近代科学は従来よりも柔軟でダイナミックなもの
になりました。

非常に大きな違いは従来は物語の形で示されていたものに近代科学は数式や数字を使う。

例えばニュートンの数式以降、砲弾や惑星の動きを理解し、予想したい人は誰でも、その物体の
質量、運動の方向と加速度、それに働いている力を測定するだけでよくなった。

但し19世紀の終わりごろになってニュートンの法則に合致しない事象に遭遇し それが
相対性理論や量子力学の発展につながりました。

 

拡大するパイ

 

500年前世界の総生産量は2500億ドルでした。

それが今では6兆ドルに達しています。

一人当たりの総生産量は500年前の550ドルに比較し現在は8800ドルに達しています。

 

歴史の大半を通じて人類の富の総量はほぼ一定でした。

何故このような富の拡大がなされたのでしょうか?

ここで一つの例を考えましょう。

建築家のA氏は仕事をし1億円の利益を得ました。
A氏はそれを銀行家のB氏に預けました。

近所に住むC氏はパンを焼くのが非常に上手でパン屋さんを開きたいと考えていました。
C氏はB氏に1億円を融資してくれるように頼みました。

B氏はC氏の話には将来性がありそうに思えたので銀行の金庫に入っていた1億円をC氏に
融資しました。c氏はその1億円をA氏に渡しパン屋を作ってくれるように頼みました。

A氏はその1億円をB氏に預けました。A氏の預金口座には2億円になりました。
但し実際にB氏の銀行の金庫にあるお金は1億円だけです。

所が良くある話ですが物価の高騰や見込み違いの為 実際の建築費は2億円かかる事が
分かりA氏はそれをC氏に告げました。
C氏は面白く無かったもののここで止めるわけにはいかないとB氏に更に1億円の融資を
頼みました。B氏は金庫にあった1億円をC氏に再融資しました。

C氏はそれをA氏に渡しパン屋を完成してくれるよう頼みました。
A氏はその1億円をB氏の銀行に預けました。
A氏の銀行口座は3億円になりました。
ただし、実際にB氏の銀行の金庫には1億円しかありません

これを10回続けるとA氏の銀行預金は10億円になります。

A氏の銀行預金10億円ととB氏の銀行の金庫にある実際の1億円との差はC氏が将来美味しい
パンを販売し利益を生むだろうと言う「想像上の将来に対する信頼」の上に成り立っています。

 

信頼がそれほど重要なものなら何故近代以前の人は思いつかなかったのでしょうか?
昔から金貸しと言う職業はありました。

但し富の総量は限られていると思われていたため 将来に対する信頼は生まれるわけが
無かったのです。

 

ゼロサムゲームの世界では誰かが金を儲けると誰かが損をします

その為金儲けは悪であると言う考えが一般的でした。

聖書にも「金持ちが神の国に入るよりもラクダが針の穴を通る方が優しい」と言う
記述があります。

 

豊かさは人を幸福にしたのか?

 

その人が幸福かどうかはどうすれば分かるのでしょうか?
一つはその人に聞いてみると言う方法です。

「世界幸福度ランキング」と言うのはそのようなアンケートの結果です。

これによると「国の豊かさと国民の幸福度とには関係がなさそうです。

因みに日本は62位で他のアジア諸国と比べると台湾、シンガポール、フィリピン、
タイ、韓国より下位にあります。

 

生化学的に見た時の幸福度とは生化学物質によって決定されると考えられます。
例えば抗うつ剤はセロトニンの分泌量を増やし人を抑鬱状態から救い出す

薬物中毒の人に薬物を摂取している時に「あなたは今幸福ですか?」ときいてみたら
「ああ、最高に幸福な気分だ」と答えるでしょう。

それではヘロインこそが幸せを手に入れる為のキーなのか?
学者たちが幸福の研究を始めたのは比較的最近であり今後も研究が進むでしょう。

 

過去全ての生物は自然淘汰の法則に従って進化してきました。

今人類は自然淘汰の法則から脱却しようとしています。

その方法は

生物学

サイボーグ工学

コンピューター工学

の3つです。

先ず生物工学ですが例えば記憶力が非常に良くなるアルツハイマーの治療薬が発見され、
又その薬が一般人の記憶も飛躍的に改善すると分かった時人はそれをアルツハイマーの
治療にだけ止めておけるだろうか?
一部の金持ちはいくら大金を払ってもそれを摂取したいと思うのではないでしょうか?

超人の出現です。

 

次はサイボーグ工学です。

今我々はサイボーグと言えなくもありません。

例えば眼鏡や入歯 補聴器等は一種のサイボーグです。

或いは心臓のペースメーカーを埋め込んだり、インシュリンの発生装置を埋め込んだり
している人もいます。

スマホ等も脳の外部記憶装置と言えるかも知れません。

例えば腕を失った人につけるバイオニックアームと言うのが発明されています。

出典 ねとらぼ

これは脳波を読み取って動くので人は普通に手を上げたいと思えばバイオニックアームが
上がります。未だ現時点ではバイオニックアームの方が実際の腕より優れていると言う
わけではありませんが、例えばバイオニックアームは普通の腕よりも格段に強力に
出来るので今後無限の可能性を秘めています。

又脳波によって動くのでバイオニックアームが体についている必要もありません。
完全な遠隔地でも腕を操作できるのです。

 

ただ現在開発中の最注目の研究は 脳とコンピューターを双方向で結ぶ
インターフェースの
研究です。

もし脳が集合的なメモリーバンクに直接アクセス出来たら我々はどうなるのだろうか?

 

第3はコンピューター工学です。
遺伝子進化の手法を取り入れたプログラムを開発しようと言う動きがあります。

それが出来ると作り手から完全に独立して自由に学習したり進化したり出来るようになります。
それらは「生き物」なのでしょうか? 「生き物」の定義次第だと思われます。

 

又持ち歩きの出来るハードディスクにあなたの脳を完全にバックアップしそれをノートパソコンで
実行した場合それはあなた自身なのでしょうか?

現代世界は歴史上初めて全人類の基本的な平等性を認めたことになっている。
上流階級の子供も貧乏人の子供も基本的な能力は同じだと言うものだ。

所が今後は違って来るかも知れない
上流階級の子供の方が貧乏人の子供より知能的にも肉体的にも優れていると言う事が
客観的現実になるかも知れない。

上に述べた生物学、サイボーグ工学、コンピューター工学により人類は地球上で初めて

自然淘汰による進化から逃れ人為的に発展する可能性が出てきました

これから人類は「どうなりたい」のでしょうか?

これは別途「人類は何処へ行くのか?」(ホモデウス)に続きます。

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